■2006/11/16(木)
 Vol.312
先代のお爺ちゃんがお婆ちゃんと下北で味を作り出していた、肉屋の三吉さんが今日で店じまいとなってしまった。
[写真:312a]
終戦直後、食うものすら無かった時代から、一個五円のコロッケを目の前で揚げて頂いて食べたものです。俺にとって一番大切な味は亡くなった母親の味が一番だが、母親や、今やばらばらになって生活を営む兄弟にとっても、三吉のコロッケの味は俺の中には母親の味と重なってあった。
下北は俺の生まれたところ。俺の思い出がつまった場がまた消えてしまう。俺にとっては寂しい限りだが、二代目も俺よりもかなり高齢。店を仕切るには骨が折れたことでしょう。運良く三吉さんのコロッケを昨日頂いていたんだが、今日は予約が一杯という事で手に入らなかった。
昔から下北を知る者なら、終わるなら思い出として味わいたいのは当然であろう。今、自分の中で50数年前の店並を思い出している。櫛の歯が抜け落ちたように、ほとんどの店は消えてしまっている。俺の知ってる味わった下北はどこへ行っちまったんだろう。
ここまで書いて居ても立っても居られず、夕暮の中一人黙って外に出る。寒い風と冷ための雨が降っている。三吉さんはとうに店が閉まっていようが、思い出深い三吉さんに足が向く。昔のまんまの店がしみ込んで明かりは灯っていたが、品物は売り切れて何一つ無い。先代が昭和二年に開店して80年が経ち、二代目もそのお年になられていた。懐かしさと思い出が重なって、二代目御夫婦と久し立ち話が出来たことに幸せを感じる。
二代目からは昔懐かしの
「しょうちゃん」
という言葉が会話の中に出て、嬉しさもふくらむ。俺にとっては、
「お疲れ様でした」
という他が無い。
冷たい床の上での立ち仕事。お身体にもさわることでしょう。三吉さんのコロッケには二度と逢えないが、最終日に二代目にお逢い出来たことで、なんか子供心を取り戻したようで、嬉しくなっていた。
江戸の味が無くなり、そして昭和の味さえ消えていくが、決して忘れることの出来ない人情の味は俺の心の中に残っている。
長い間まっとうなお仕事をなさって来なさった二代目夫婦の顔は、仏のようでした。
雀鬼

[写真:312]

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