■2006/06/06(火)
≪ Vol.152
今、すーっと道場に入って来て、自分の定位置の仕事机に座っている。
何時もなら、「すーっと」がないと、道場に居る者達から全員、「おはようございます」の声が掛かる。今一人を除いて、一応正面の入口に向かったところに、彼等は存在している。そこに居る者の視野の中に、真正面から入場しても気付かない。気付いてくれないから、この原稿を書いている。
俺って、道場主、雀鬼と呼ばれる男なのに、本当は存在力がない男なのかも知れない。道場内では一番、下っ端と呼ばれる矢部ちゃんなんて、俺の真正面の席に座って、仕事をしているふりをしている(笑)。
30分が経っている。今だ矢部くんは自分の世界に入ったまま。それほど集中することも、真剣であることもないのに、今だ、俺がすーっと入って来て、諸用を済ませちまっていることも気付かない。矢部が鈍感なのか、あるいは昨日は下北道場の方でちょいとつかまえて、痛みを伴う悪戯を仕掛けて遊んでやったことを恐れているのか、恨んでいるのか、全くもって俺の存在を無視というより、同じ空間に居ることも気付いてくれない。
日頃の矢部くんは、やったふり、出来るふりを、知ったかぶりと違った感じの「ふり人間」のぶりっ子男なのは、道場生ならたいがい分かっているが、今日の矢部くんは、それとは違う。
矢部ちゃんがずーっと気付かない原因は、全部俺が作っているもの。「忍」の術という奴があれば、多分それ(笑)。今までその術をかけられた者は何人もいる。かけられた者は不思議がり、その状況や状態を勝手に解決しようと推理するが、そんなものは何もない。ただ俺が「すーっと」すれば、それが通るだけ。
今までも、同室の者が座っている前で、俺が今から動き回るから気付くなよと、念を送ると、座っている者の目の前をうろちょろして、顔をのぞきこんでも、そのままじゃあねぇと、「ガチャ」とドアの外へ出て行っちまっても、気付かない。
その逆もあった。目があれば見える、動くものは気付くは、当たり前の感覚なんだろうけんど、それとは違う別の次元があることも、俺は体験上知っている(笑)。この術を通す時てぇ凄ぇおもしろいんだけどなー。
矢部、今日はありがとう。おかげさんで、HP用の原稿を一本書き終え、矢部ちゃんのかかった術を解いてあげる。
矢部、立ち上がって俺を見る。矢部、起きている現状に、頭の中が真っ黒。俺の方を向いて、矢部は自分に、これは幻想だ、妄想だと、自分で自分に言いきかしている。その矢部の姿から、心の動きまで読み取れるのだからおもしろい。
その矢部さん、何の仕事をやってんのかとのぞいてみたら、仕事場でマンガを画いていた(笑)。
いいスタッフだよね、君は。雀鬼
[写真:152]
≪ [Home]