■2006/05/30(火)
≪ Vol.144
皆さん、こんにちわ。10日間ほど別の世界を旅して昨日、やっとこさ「常」の分野に帰ってくることが出来ました。
三蔵法師や悟空の如く西へ西へ向かっての修行の旅でしたが、その道程で遭遇する危機も、終ってみれば楽しいものでした。
何が起こるか分からないその行方には、危機や恐怖や異常の見たことのない世界ばかりでしたから、帰国したばかりの日は心身ともに疲れがたまってクタクタ状態。家路に着くと1cm程の敷居もまたげぬほど、足が重かった。
現実に還って月曜日―
そういえば、この日は道場のイベントである「身体を動かす日」ソフトボールを下北本部の指導で行うという。
俺の身体も心もクタクタ。
「行けねぇ…マジ、無理、ムリだ…」
と、俺の心と体が話し合っている(笑)。自分の中の一人の方が言う。
「別の世界で過酷な体験や修行をして還ったばかりだし、若いもんにまかせなさいよ」
そうだよな、そうだよ。たまにゃ、俺が居なくたってどうにかなるさ、と俺も納得する。ところがもう一人の自分の体を見つめると、重たい身体を引きずりながらリュクサックの中にグローブなどを準備している。
冗談じゃねえ。何時だって、もう一人の俺は融通が利かない。俺の気持ちも、俺のクタクタな疲労も感じてくれない困った奴。俺の性格がそうなのか、リスクのある方、困った方を知らず知らずに選んでしまう。知らないうちに俺も選択をしちゃって気付くと一人で電車に乗っている。
あぁあ〜、また俺行こうとしている。
身体も心も動いちゃいない。何か自分の持つ魂だけが、一人歩きしている。
梅が丘の駅に一人で降りる。少しずつ、自分の肉体と心が魂から抜け出ている。駅前のスーパーで昼めしを買った。エビフライ、カキフライ、焼き鳥も作りたてのせいか温かい。
グラウンドで動き回る道場生を見ながらベンチで飯を食うか、と考えがやっとこさ、まとまる。思考は少しずつ動いてきたが、身体は未だに動く気配が無い。
さほど重くないリュックを肩に、両手に弁当を持って、駅から羽根木公園に向かう。コンクリートの道が、一歩一歩踏み出す俺の足に痛みが走らせる。デパートの中もそうだが、床の固さは何時だって俺の足に痛みを加える。一歩一歩が一発一発のパンチのような痛み。
小高い岡を登る。10cmほどの石段が高く感じられていたが、石段の両端は梅の木で囲まれている。その木に気持ちを重ねているうちに、石段の事も少し遠のき、岡の上に登った頃はには、俺の幼少の頃からそこに、ドシッと根を張っていた古木が新緑の葉を目一杯ふくらまして上の方の葉や枝は風に吹かれてゆっさゆっさと揺れている。
俺の足元は土に変り柔らかさで俺の足の痛みを和らげてくれる。朝、あれほど、行きたかねえと思った気持が土と緑のお陰で、「来て良かった」に変って来る。
テニスコートを過ぎると遠めに懐かしいグラウンドが目に入る。すでに道場生等が、楽しく子供のように体を動かしているのが分かる。
広めの木立の道を、なるべく懐かしい木々の側を通って進む。木々たちは一本一本、俺の昔馴染みの方々。どこの誰かさんという名前はないが、俺の記憶の昔からの親しみある知り合いという感じ。
俺はまだ一人。若い者達は知らない、分からない。俺と過去の分野。
「あ、こんにちわ」
「久し振りです」
と、覚えている木々に声を掛ける。古木達も、
「あのいたずら小僧も年を取ったもんだ」
と、隣の木に向かって、ユッサユッサと話しかけてくれる。俺も古木さん達を覚えているが、木々さん達も俺の事を覚えてくれていた。
グランドで動き回る皆んなが俺に気付き、一人の世界から仲間達の空間に入る。上手い奴も下手な奴もそれぞれの持ち味で体を動き回って楽しんでいる。
俺はベンチに座って昼飯を味わう。どういう訳か、すでにめしが美味く感じられる。気持ちや身体が少しずつ目覚め動き出している。それもこれも全て道場生のおかげ。一人だったら決して動かなかった、動くことが出来なかった俺が彼等があってこそ、又動かして頂けている。めしを食いながらも、その仲間に加えてもらっていることに感謝心がさらにわきあがってくる。全く動くことが出来なかった身体が動き出して夕方まで明るく元気な空間に染まる。
俺の生まれ育った下北沢から羽根木公園は二駅離れたところに位置するが、昔は公園でもなく、ただの小さい根づ山と呼ばれ、子供の頃は歩いたり、走ったりしながら夕暮れまでこの小高い山に遊んでもらった。
この山の隅には日本兵が作った防空壕があって、地下の中に迷路の様に広がっていて、子供の頃、ロウソク1本を手に探検した。ある一日はあまりにも奥へ深く入り過ぎて、ローソクの火をともし、一夜をそこで過した思い出もある。
俺の子供の頃は家を一歩出れば、どこに行っても遊び場、楽しみ場があった。元気な身体一つあれば、金も食べ物も何もなくとも朝から夕暮れまで十分に楽しめたものである。
グランドで、身体を動かせられることだけでもありがたいのに、思い出まで触れ合うことが出来た。これもそれも全て安田達、道場生のお陰。マジ、ありがたいことです。神社や寺に参るより俺にとっちゃ、ありがたいことなのです。
「ここはな…俺の子供の頃にはな…」
と俺の体験した土地の昔話しを若い者達に話しを聞かせてやるのが俺の役割なのかも知れない。
夕暮れに下北道場へ戻る。
「会長、銭湯へ行きますけど」
と道場のソファに横たわる俺に声が掛かる。
「いや、この人数じゃ大変だから、若いものは先に行かしてよ。」
と側のシャボちゃんに疲れた体をマッサージをしてもらう。遊びに入れてもらい、昔話しを懐かしませてくれた上にマッサージまでしてもらう気分のありがたさに心も身体も気持ち良くなり、そのまんま夢ん中に入ってしまう。
2時間夢を見て起き、トイレに立つ。信じられないが、そのまま再び深い眠りに入る。さらに3時間が過ぎて、目を開ける。夢ん中では俺にとっちゃ最高のリズムであるスタン、スタンという音が響く。道場生が眠る俺を気遣ってる打牌の音。幼な子の頃、母親に寝かしつけられるスキンシップのリズムに牌の音が重なる。道場の安田や上に立つ者達が皆して俺が目覚めるのを5時間も待っていてくれた。
「会長、起きられましたか…」
「うん、随分長い間寝たな。」
「ワーイ、会長が起きたから言葉が出せる。」
彼等だって朝早くからグランドで動き回り、その後、静寂の時を5時間待っていた。彼等が自らの疲れと眠さと5時間も闘ってくれたことは分かっていた。
「危え、電車がもうねえなー」
「会長、どうですかアレ」
と安田。目をやると、町田道場から俺を迎えにやってきてくれた歌田の背中が、何事も無かったように控えて見えた。
「嬉しいねぇ、ありがたいねぇ、皆んなの心遣いが…」
安田のようにこんな時に不覚の涙を流すような俺じゃ無い。
「俺、腹減ったよ」
「わかりました。『鳥ちゃん』にお供します」
流れが流れ着いちゃって、ぐっすり休んだ俺一人と疲れ切っているはずの安田等と、3時間を越えるゆったりとしたうまい味にしたしむ時間まで頂いて、皆んなにとっちゃ、本当に長い、疲れる一日からの解放
帰る車の東名で
「歌ちゃん、もう空が明るくなってんねぇ」
「ありがとう、お疲れさん(皆んなにな!!)」
「楽しかったです。」
と迎えの歌ちゃんが言ってくれた。
皆んなゆっくり寝てくれたかなー。おやすみ。
雀鬼
[写真:144]
大切なのは、身体を動かすこと。太陽の日を浴びること。
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