■2006/05/16(火)
 Vol.128
皆さんただ今
二泊三日の憂鬱だった旅を終えて帰ってきました(笑)いっしょに同行するはずだった安田は娘さんの誕生日ということでドタキャン。俺は母の日を前にして、女房殿からの脱出。俺にとってはグット・タイミング(笑)前日は道場生からの感謝(?)のプレゼントを頂く。もらえる物なら何でも喜ぶ女房殿は、やはり御機嫌でした。
岩手県は今だに寒いという。その上標高1000mを越える雪で囲まれた場所に行くということで、冬物詰め込んだバックは海外旅行並み。まぁ一人で踏ん張るかと思いつつ駅に着くと、恒ちゃんとチャッペが隣を歩いている。やっぱし二人は気づかない(笑)俺のほうから声を掛ける。小田急のロマンスカーの乗り場に着くと、これからたった一人で憂鬱な旅に出かける俺の心痛を知ってか、何人もの道場生達が見送りに来てくれていた。車窓から「仕方がねえけど行って来るよ」と×印のサインを送る。
ドアが閉まる。荷物を持って送りに着てくれた恒ちゃんがやっぱり降り遅れていて、閉まるドアの前で起きた事に気づいたのか、ボーと立っている。恒ちゃんは何時だって「本物の間抜け(笑)」
盛岡までの数時間グリーン車にするか、喫煙車にするかの選択。後者を選ぶ。何だか知らんが行くことになっちまった。事前に何だか知らんが、講演題目や、地域のリーダーとなる青年会議所・・・・うんぬんと書かれたファックスが届いていたが、二日間にわたる彼等の行事の中に、俺のスケジュールがぎっしり入れられていることだけは分かっていた。
盛岡の駅には、俺を呼び込んだ無礼者の松原委員長が迎えに来ていて、彼が運転する車で宿泊する会場のホテルまで2時間を越す。家を出てから6時間以上の座りっ放し。こういうのって好きじゃないんだよね。ドライブは好きじゃないが車道沿いにきれいな川が流れ続けてくれ、東京では見る時間が無かった桜が咲いていて、きつねやたぬきが時折り俺の目を休めてくれた。自然はいいんだけどホテルに着くと黒っぽい服を着込んだJCの幹部達がずらっと並んでいた。
すぐに降りない。彼等を前にしてタバコに火をつけて一服。出足から彼等の間合いをはずしてやった(笑)頃を見計らって彼等の緊張振りを見ながら「今日わ」と素通りする。着いたとたんに、先ず幹部連と明日の本番に向けて打ち合わせだってさぁ。一室に通される、次から次へと薄っぺらい名刺を頂く。何んだか分からんが、会長です、理事長です、塾長ですと、肩書きも名前すらおぼえるつもりのない彼等に囲まれて座る。代表者が一応念のため明日の事を話し出すが、ほとんど聞いちゃいない(笑)二言、三言、こんなんでいいんじゃないと彼等の質問に答えてやると、OKです、今から僕の事は「いちろう」と呼んで下さい。僕は「ヤス」でお願いします。分かったよ、だから打ち合わせなんかいらないって。出たとこ勝負で充分てぇこと分かった。あれほど緊張していた彼等が二、三分で瞬間でにこやかな顔に変わっていた。俺にとっちゃ、松原もそこに居並ぶ幹部連中も同じ。たいした違いがあるわけじゃない。明日は松原が多く集まるだけのこと。
松原は学生時代に道場にやって来て、アルバイトでもいいから働かして下さいといって来たが、今や高槻塾の支部長である山田英樹が、お前は田舎の坊ちゃんだから、一年間様子を見てから入れてやると申しのべ、その後、その坊ちゃまは一年間毎日道場に顔を出していちゃ山田に、松原、お前って本当にばかだねぇーと弟のように可愛がられていた。そんな松原だったが、今は父親が経営する会社の専務殿で、やっぱしJCなんかに入っていて、委員長とかやっていて俺を呼んじゃった(笑)
本当に10数年至っても松原のお馬鹿さんには変化が無い。タクシー会社を経営しながらも俺が乗ろうとする車のドアの前に突っ立っている。仕方がないから俺が自分の手で開けようとするが開かない。すみません、カギを開けていませんでした、とポケットに手は突っ込むは、途中のインターでトイレに立ち寄れば、小用を済ました俺を寒風が吹く車のそばに待たしたまま本人は大を済ませしてくるは、車の中にドリンク一本すら用意をしていないわ、二日間俺の世話をするどころか俺の手を借りるか、面倒を掛けるばかり。
「お前ってぇ本当に・・・・」
こんな立派(笑)な若者が地域のリーダーうんたらくんたらと、笑っちゃいますよねぇ、全く(笑)
そんな連中と夜の会食を済ませながらも質疑応答の一日目が終わり。同じ部屋に泊まって行くつもりで来ていた松原を、風呂だけいっしょに入って帰らせる。
ホテルの部屋の窓から眺める浄土ヶ浜の夜景を一人眺めているうちに、今日の事も明日行われる事も完全に消え去っていた。翌朝、ありゃりゃここはどこだ、という感じで目覚める。のんびり何も考えずに早朝の海を眺めていると、現実の松原の顔が現われ、朝食も食わして頂けぬまま、九時半から始まる会場へ。
半分ぐらいが昨日からの疲れを持ち越したような空気を感じる。昨夜は遅くまでホテルの部屋で酒でも飲んだのだろう。そしてその日は彼らは六時三十分に朝礼から始まって、その後奉仕活動とやらでトイレ掃除をやったらしい。この部分は許すし認めるが、その後俺以外は全員朝食を食べたらしい(笑)
めしも食わせて頂けない俺の出番は長かった。第一部の話があって第二部に人が入れ替わったりして、第三部構成まで仕込まれていて、その上おまけに第四部の昼食会とかがついて連続五時間半の話づくめ。やっとありつけた昼食だって、写真だぁ、サインだぁ、質問だぁーと延長戦が伸びる。終ってみればなんなく済んじまったが、五時間半も至っていたんだってさぁ。
予定より一時間も遅れてJCの連中と別れる。何をどう話したかなんてもう忘れてしまった。その時その場で話を瞬間的にやってるんだから消えてしまう。次の宿泊地へ向かう道中で
「私の3こ下のTというやくざ者も会長のファンでして・・・・」
「そいつの家はこの近くか」
「十分ぐらいのところです」
「呼んでやれ」
この先急ぐ旅であったが、見知らぬ土地で現役のやくざ者のTとやらが来るのを、そば等のファミレスの駐車場で待つ。どういうわけかその時は、寒かった車外がポカポカ温かく気持ちがいい。Tという若者が幼子を抱いて走ってきた。その後ろに赤子を抱いた奥さんも走ってきた。その姿はどこにでもある家族の姿に重なる。JCの会員も現役のやくざも、俺にとっちゃ少しの変りめを感じなかった。母親に向かって
「その子は一才ちょっとかい」「ハイ」
Tとやらが、着て来た白地の上着にサインを下さい。
「この服はもう着ないで大切に取って置きます」
「そうかい」
Tの家族とも写真を撮った。少しの間であったが、見知らぬ土地でやくざな男に時間を差し出す。車中で
「なぁー松原。もしかしたら俺がこっちへ来たことで一番嬉しい気持ちになれたのは、やくざもんのTとお馬鹿さんのお前かも知れねえなー」
「会長、会長はやっぱり会長らしいですねぇ」
と、お馬鹿さんなりの返事が帰ってきたが、瞬間出会ったTの家族に幸あれよと願っていた。
雀鬼

[写真:128]

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