■2006/09/13(水)
 Vol.243
プライド無差別級GP決勝の日は、今年一番の暑い一日だった。
会場へ向かう途中の暑さ、この暑さは、身体の弱い方やお年寄りにはきついな、病人はさらなる病が悪化してしまうと、周りにいる、病を持った方達を案ずる暑さだった。
フジテレビは逃げちまったけど、会場は超満員。逆風が吹く中、多くのファンが集ってくれたことは良かった。
第一試合から、うちの道場へ遊びに寄ってくれたり、俺の講演会にも顔を出してくれた、元ボクサーの西島洋介選手が登場。
リングに立った姿を見て隣の安田に、
「相手の膝蹴りが危ない、西島はその対策や受けを知ってんのかなー」
と心配していたら、首根っこをつかまれ、膝を入れられ、倒されて、落とされて負けちゃった。何か悲しい敗北だったよ。
そして二試合目に、ミルコとシウバの準決勝。
プライドが始まった当初は、会場全体で日本人びいきというか、プロレスラーびいきの応援が大半だった中、俺一人が強い者は強い、凄い奴は国を越えても認めるべきだと孤立していたが、今や、ファンの目も肥えて来て、ミルコとシウバへの声援が正しく飛びかう。
ミルコもシウバも、俺にとっては最高の選手。どちらが勝ってくれてもいいんだが、ミルコ6分のシウバ4分の違いが見えるが、立ち合った両者、大きな動きが今だ見えない10秒後、
「ああダメだ」「今日は何をやっても通用しない、終わっちまう…」
と少し大きめの声を吐き出していた。
五分の闘いが出来る両者だったが、その日のリング上では開始10秒、シウバは、ミルコの「間合いの中に」しっかりと捕らえられていた。
多分その瞬間を闘っているミルコも、肌で感じ取っていたことだろう。
一方のシウバも、己の不利を感じてか、修正、入れ替え、逆転の可能性を本能で感じ取って、打ち合いに出る。その可能性をミルコは冷静に断ち切っていき、シウバは敗北に向かって凄まじい程突き進み、KO負け。
イチローもそうだが、ミルコも、マスコミや体制に媚びない、我が心を売らない男らしい男。その上で彼には、凄まじい程の勇気があり、更に、的確に判断できる知恵がある。
ミルコの勝ち振りは見事なものだったが、敗れたシウバも、壮絶な殉死である。
会場で、長い良きおつき合いをさせて頂いている、シウバ側のブッカーKさんに逢う。
「シウバ大丈夫かい?」
「先生、シウバは勝っても負けても良い試合をしてくれますから…試合前に先生に逢ってなかったのが敗北です(笑)」
まさにその通り、シウバは長いリング上、何時だって手を抜いたり逃げるような試合をしない。見事な闘士であった。
勝負は10秒経った時にすでに決まっていたが、その後の2人の試合は、見事な勝者と敗者を作る。この一試合だけ見れただけでもう「ご馳走様」という気分であった。ミルコ対シウバの試合こそ、見なければ損ということでなく、見ておかなければならない試合であった。
途中シウバのTKO負けもあったろうが試合は続行され、ミルコがとどめの左ハイを入れる。武士の情けを感じ取る。その一蹴りで、シウバは意識を飛ばされたが、ミルコの左足から腰への、痛みを感じ取った。ミルコ決勝は、蹴りに頼れず、パンチで行く他ないと案じる。
一方のノゲイラとバーネットの準決勝は、柔らかい者同士の闘いで判定に持ち込まれる。バーネットの猛攻を防ぎながら、スタミナ切れを待つノゲイラは、シロウト目じゃ不利に見えるが、すれすれのところでコントロールをしていた。俺の目から見れば、ノゲイラの微差勝ちを見たが、その後リングサイドの現役の格闘家からも、
「先生、あれノゲイラでいいんですか」
と意見が重なる。
そして決勝でミルコがタップアウト勝ちして、感情が静かなミルコが涙する。普段なら試合が終わったら、即、席を立って帰る俺も、久らくスタンディングオベーションの立場を取って、ミルコの本物の強さを祝う。
ノゲイラは、何時もの彼でなく、ミルコとシウバは何時もの姿だった。
その日の9試合の試合があったが、本物の試合は、「ミルコ対シウバ戦」一試合が抜きん出ていた。
途中顔見せ、試運転みたいな試合もあったので、外へタバコを吸いに出ている時、心やさしい松井の大二郎から、西島が心が…。来てやって下さい。
選手控え室に行くとそこにも、心やさし過ぎる敗者、西島洋介の悲しげな姿があった。
男の勝負の舞台裏って、男ってつらいよなー。
雀鬼

[写真:243]

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